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序章

 

 

 これより記すのは、あなたの覚えていない、あなたの姿です。

 

 あなたがこの手紙を受け取るまでに、どれほどの時間的差があるのやら、正直見当もつきません。少なくとも半年前に見たあなたは、十代の半ばほどでした。しかし、あなたが今どれほどの年齢になっているのかは全く分かりません。そもそもこの手紙がまともに届くのかどうかすら怪しいものなのですから。ただしそう言っていては話が進みません。届くと信じ言葉をつづることにしましょう。

 さて。

 あなたは恐らく戸惑っているのではないでしょうか? 何を言っているのやらさっぱりわからない、といった顔が目に浮かぶようです。事実、錯綜した文章になっている自覚はあるんですよ。

 この先を読み進めようとも、これがあなた自身のことであるとは到底思えないかもしれません。夢物語と一蹴されるやもしれません。そもそもきちんと読んでもらえるかすら疑問なのです。

 ですが、少しでもいいのです。少しでも、心に留めてもらえれば、それで私は満足なのですから。

 あなたの記憶には残っていない彼らのことを、そしてまた、あなた自身のことを知って欲しい。

 その一心で、わたしは筆を執ることにします。

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